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いぶにんぐスペシャル Saturday |
ほっとサイエンス |
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2004年(平成16年)6月5日(土曜日) 読売新聞 夕刊 |
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溝伸ばしてみたら散々
「さすが」 現行品の実力再認識 |
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| ■「+」ネジ |
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| 身近な家電製品などの裏側で革命が起きている。
見た目は何の変哲もない小さな「+(プラス)」ネジだ。 ネジは機会の組み立てに欠かせない大切な裏方。例えば、デジタルカメラ一台に約八十個ものネジが使われている。プラスネジはJIS(日本工業規格)などで規格が決まっている「完成した製品」。ドライバーが浮き上がって外れたり、ネジの頭の溝が崩れてしまうことがあっても、そうした欠点は当然のこと、と誰もがあきらめていた。
産業用電動ドライバーを作るハイオス(本社・千葉県松戸市)の社長、戸津勝行(63)はある日、研究のため、ライバル商品を分解して、ネジの頭の溝を壊してしまった。
二百件以上の特許を持つ戸津。改良の虫が目覚めた。「ネジとドライバーの接触面積を増やせば、力が分解して、溝も崩れなくなるのでは」指一本でドアを押すのは難しくても、二本、三本なら押しやすくなるのと同じ原理だ。早速、ネジの頭の溝を横に伸ばしたものを作ったが、ネジとドライバーの角度が少し傾いただけで外れ、散々な結果だった。「さすが長年使われてきただけのことはある」と、逆に現行品の実力を認める羽目に。開発は頓挫した。それでも現場の作業者からはネジに対する嘆きの声が聞こえてきた。ネジからドライバーが浮き上がらないように力を加えるとどうしてもひずみが生じる。機会が精密であるほど、ネジの問題は深刻で、電動ドライバーの側の工夫も限界だった。「弓を改良しても矢が悪ければ真っすぐ飛ばない」。挑戦は再び始められた。溝を伸ばすのではなく、深く掘る−。突破口は単純な発想の転換だった。従来のプラスネジの溝の断面はV字になっている。約七十年前、米国で考案された時、余分な締め付け力が加わっても、ドライバーが浮き上がり、ネジが切れるのを防ぐよう、工夫されたものだった。ネジの材質が弱かった時代の「知恵」が、そのまま見過ごされてきたのだった。戸津は試行錯誤の末、断面がU字になるよう、溝を深く彫った。ドライバーは浮き上がらなかった。接触面積も約二倍になり、溝を崩すことなく確実に締められることがわかった。先が平べったい専用ドライバーも作った。もちろん、従来のドライバーでも回すことができる。ネジは十五か国で特許申請し、米国や中国ですでに認められた。一九九八年、電動工具メーカーで初採用され、今では液晶テレビやデジタルカメラ、コピー機などに幅広く使われている。ネジ締めミスが十分の一に減り、熟練者でなくても確実に仕事ができるようになった、と家電メーカー側も大喜びだ。稲崎一郎・慶応大学教授(メカニクス基盤工学)は「現場の工夫が生きた好例。日本の物作りの底力を示している」と評価する。「気が付けば何でもないアイデア。誰もが当たり前と見過ごしていた中に、宝の山があった。世界中に新しいネジを広めたい」。戸津の夢は広がる。 |
(杉森純、敬称略) |
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